東京地方裁判所 平成7年(ワ)9223号 判決 1995年11月30日
原告
井上唯治
外六名
右七名訴訟代理人弁護士
金丸弘司
被告
今野康裕
同
澤田正雄
右訴訟代理人弁護士
阿部長
被告
田中勝
右訴訟代理人弁護士
青山健彦
被告
和田光正
右訴訟代理人弁護士
菊地幸夫
被告
渡辺成就
同
福田勝行
右訴訟代理人弁護士
鐘築優
被告
大和幹夫
右訴訟代理人弁護士
大竹秀達
同
安東宏三
被告
森下徹
同
佐藤秀雄
同
鈴木邦夫
主文
一 本件訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
一 本件は、株式会社ニコマート(以下、「訴外会社」という。)の株主であると主張する原告らが、同社の取締役及び前取締役である被告らを相手に、同人らが取締役としての忠実義務などに違背し、会社の主たる事業に属さない不動産投機などを行い、一〇〇億円を超える損害を訴外会社に蒙らせたとして、その損害の賠償を求めて提起した株主代表訴訟であり、請求の趣旨及び原因は、別紙訴状記載のとおりである。
二 ところで、原告らによる本件各訴えの提起の日が平成七年五月一五日であること及び訴外会社が原告らの本訴提起前の同年四月二六日に破産を宣告されていることは、本件記録上明らかである。
株主代表訴訟は、会社が取締役の責任を追及できるにもかかわらず、取締役相互間の特殊な関係からこれを怠り、会社ひいては株主全体の利益が害されることを防ぐために、株主に会社に代わって訴訟を提起・追行することを認めた制度であり、会社が訴えを提起する権能を有することがその前提となっている。しかし、会社が破産宣告を受けると、破産財団の管理・処分権等は破産管財人に専属するから(破産法七条)、取締役の責任を追及する訴えも、破産財団に関する訴えとして、破産管財人が当事者適格を有し(同法一六二条)、会社は、右訴えを提起する権能を失うことになる。しかも、破産管財人は、裁判所の監督の下に善良な管理者の注意をもって、公平誠実に職務を遂行する責任を負うものとされ(同法一六四条一項)、取締役との間に前記のような特殊な関係も存しないから、取締役の責任の追及をことさらに怠り会社の利益を害するおそれもなく、株主による代表訴訟を認めるべき実質的な根拠もないといわなければならない。
そうすると、会社が破産を宣告された後は、取締役に対する責任の追及は、専ら破産管財人に委ねられ、株主はもはや代表訴訟を提起することができないと解するのが相当である。前記のとおり、本件各訴えの提起は、訴外会社が破産宣告を受けた後になされているから、本件各訴えは、原告適格を欠き、不適法である。そして、右原告適格の欠缺は、性質上、これを補正することができないこともまた明らかである。
三 よって、原告らの本件訴えは、口頭弁論を経ることなく、いずれも却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官金築誠志 裁判官本間健裕 裁判官武笠圭志)
別紙<省略>